朝鮮戦争 5

1980年9月、日本の「歴史科学評議会」は雑誌「歴史評論」で朝鮮戦争を特集して、資本主義韓国とアメリカの立場を否定して、朝鮮戦争は「人民解放戦争」だと規定した。

 この「解放」とは、日本統治時代に成長した韓国人資本家に支配搾取された民衆を解放するという意味だったが、その後、北朝鮮では、餓死者が続出することになっていく。

 

朝鮮戦争の原因の諸説

 ヨーロッパにおけるNATOなどの資本主義諸国を糾合するアメリカのリーダーシップの力をヨーロッパに集中させず、力をアジアに分散させたいとスターリンが考えて、金日成を誘導した。

 2.スターリン主導説の2

 アメリカが日本と単独講和を結んで、日本を親米政権にしようとしたことが明確になった段階で、日本を確保したアメリカに対して、全朝鮮半島を確保することで対抗しようとした。

 3.1949年に駐韓米軍が撤退し、続く1950年1月に米国務長官アチソンが「韓国を防衛線の外、と発言したため、スターリンは、「民族自主」の建前を取るかぎり、アメリカは傍観する可能性が大きいと誤認した。中国共産党の成立を米国が傍観したことが、この判断を支えた。

 4.中国共産党とアメリカ両国へのスターリンの嫌がらせ

両国に戦争、消耗させて、その後のソ連の国際的国力の相対的向上を図った。

 (親中国派ジャーナリストのエドガー・スノー、ジョン・ガンサーの説)

  • 第二次大戦中に連合国として、蒋介石国民党と合意していた中国大陸北部海岸の軍事港使用を中国共産党に断れたので、朝鮮半島全体を親ソ政権にして、軍事港を確保したかった。

 ※なぜ、アメリカは中国共産党政権の樹立は黙認したが、朝鮮半島共産主義政権樹立は断固黙認しなかったか、この点、極めて謎である。中国共産党と国民党も内戦なら、朝鮮戦争も内戦である。なぜ、中国については放置し、朝鮮については放置しなかったのだろうか。

 

 これについては、おそらく、日本降伏後、ただちに中国国民党支援に米軍を投入するには、米軍自身、疲弊していたのであり、不本意ではあったが、黙認せざるを得なかったが、朝鮮戦争は1950年9月に起きたので、ある程度アメリカの参戦力が回復していたから、ソ連圏の拡大を止めるために、参戦したということかもしれない。

 

 6.中国主導説

英国のアトリー首相は、当時、アメリカが中国共産党政権の国連加盟を拒否したため、中国が威信を回復するために、朝鮮戦争で北に勝利させる必用が生まれた、とする。

 

また、コロンビア大学のマーシャル・シュルマンは、中国が主導し、ソ連は傍観すれば、手柄をすべて中国に取られるので、しかたなく、支援したとする。

フルシチョフ回顧録の主張では、金日成の構想がまずあり、スターリンが補強したとする。

また、金日成毛沢東を説得したが、最初毛沢東は乗り気ではなかった、と上院議員のアレグザンダー・スミスが主張している。

 

 8.1952年、アメリカのジャーナリストI・Fストーンが「秘史朝鮮戦争」で、戦争の原因は、金日成ではなく、米国と韓国の共謀による挑発、とした。

 

 トルーマン政権が欧州を重視していたので、「軍閥マッカーサーがアジアを優先させるために、蒋介石、李承晩と結託して、紛争を起こさせたとする。

 この説は1966年になって、日本で翻訳出版されて、日本の左翼に影響を与えた。

 また松本清張もこれをやきなおして「謀略朝鮮戦争」とした。

 日本では、1965年に名古屋大学の信夫清三郎が8月号の「世界」で、北朝鮮がはじめた戦争ではあるが、それは「内戦」であり、「侵略」ではないと主張。アメリカが拡大したとしたので、日本の左翼勢力は、こぞって、翌年出版された「秘史朝鮮戦争」で、韓国と米国の悪を確認したといえる。信夫は再三、「北侵」でも「南侵」でもなく、「内戦」と強調して、遠まわしに北朝鮮を擁護した。

 

韓国側の責任が重いとする説の論拠は、李承晩が「北進統一論」をすでに述べていたこと。朝鮮戦争前の一年間に小さな戦闘が起きていたが,相当部分、韓国側から挑発されたものだ、と主張する。

 

結論をいうと、日米の左翼的な学者たちは、朝鮮戦争を「民族解放戦争」として、アメリカが介入したものだとする。

あまり左翼的でもない学者の場合、「民族解放戦争」という北朝鮮の主観的意図をソ連、中国が利用したものだとする。

だが、確実にいえることは、「資本主義の桎梏から民衆を解放したことは、すでに北朝鮮では成功し、この成功を南に拡大しようとしたが、失敗したのである。

では、この「成功した民族解放」の結末はどうなったかといえば、金日成一族礼賛の一党独裁体制の継続を帰結し、飢餓がうまれた。

「民族解放」の行われなかった韓国もまた、貧困層が定着し、「ヘル朝鮮」地獄の韓国といわれ、青年たちは、英語に夢中になり、文系の教養は崩壊し、理系の強化にも失敗して、ただ英語の習得を誇りにして、外国移住が急増しているのである。

 

「社会的セーフティ・ネットを整備できず、資本主義の桎梏にからめとられた韓国」と「資本主義打倒に成功して、やはり社会的セーフティ・ネットのない、共産主義の桎梏に絡め取られた朝鮮」が出現した。