戦後民主主義とリベラルの敗北

1955年までは日本の産業構造は農業水産業中心であったから、実際には農林水産業従事者は、共産主義思想、政府転覆思想を理解する素養自体がなく、同時に「快楽消費に対する渇望」がなく、ある程度村々の中の生活に充足していた。そのため、普通選挙は、むしろ、現状追認の保守政党が政権を取る結果となった。

 高度成長に入ると、それはそれで農林水産業から第二次産業に移動した人々には、それなりに希望が生まれ、豊かさへの憧れはアメリカ映画、テレビ、音楽がなによりの証拠として作用して、いかに進歩的知識人がソ連は良い国と述べ立てたとしても、現にソ連の豊かさ、華やかさを証明するソ連映画はなかったから、多くの日本人は米国と協調する自民党政権を選択し続けた。

 

 これはやがて自民党の派閥政治、収賄・利権政治の醜悪な側面が鼻につくようになり、1950年代に20代から40代だった人々が40代から60代を迎えて、ちょうど子どもの世代が社会の中枢になった1970年頃から、前世代の日本人の保守性、無教養性、盲従性が嫌悪されるという形で世代間対立が起こるのである。

 

 そして、1970年に20代だった青年達にとっての教祖的役割を果たしたのが、1974年にアメリカがベトナムから全面撤退するまでに活動したベトナム反戦運動小田実

1967年の「万延元年のフットボール」で安保闘争のような政治運動を肯定してみせた大江健三郎の二人であった。

 

 小田実大江健三郎がさらに飛躍的に当時の20代から40代の日本人の心情をつかむには、小田実大江健三郎が賞揚した中国・北朝鮮が事実、輝きを示す必要があったが、そうではないということが、革新派の致命傷になり、ついに共産党社会党連立政権は戦後日本にただの一度も実現しなかった。

 

 ここで、朝日新聞岩波書店日本共産党社会党大江健三郎小田実の使った詐術が、豊かさよりも「平和」「反核」が大事だという発想である。

 

 これは米国の発展とこれに相似する発展を続ける日本について、「核の危機」に覚醒しない、また「核の危機の元凶たる米国」と決別しようとしない日本人は覚醒していないのだという批判を若い世代に対して小田実大江健三郎は突き続けたが、これまた、中国が軍拡を続け、北朝鮮一党独裁制を強化し続けている実態が知られるに連れて、小田実大江健三郎は信頼性を失っていった。

 

 やがて1990年代になると、この時点での20代から40代の日本人の意識は、ソ連崩壊と労働組合役員の管理職への成り上がりという現象が多数見られるようになったことを体感したことから、社会党共産党の自治体議員から国会議員までも、結局は自分一身の政治家としての利益がほしいというのが本音ではないのかという疑念が普遍化していく端緒でもあった。

 

 さらに同時にバブル景気と大衆文化の高揚がみられてきた。

1990年のアメリカ映画「フィールドオブドリームス」「いまを生きる」「オールウェイズ」「ドゥザライトシング」英国映画「マイレフトフット」「マグノリアの花たち」台湾「非情城市」「アイリスへの手紙」「ダイハード2」「バックトゥザフューチャー3」「ゴーストニューヨークの幻」「グッドフェローズ」「トータルリコール」「プリティ・ウーマン」というように、西側資本主義国が精神的な豊かさと経済的豊かさの可能性を持っているのではないかと思わせるに十分な大衆文化の達成を示した。

 

一方日本の大衆文化はこの頃、映画は著しく衰退したものの、大衆歌謡はシンガーソングライターによるヒット曲が爆発的に開花した。

 邦楽年間ヒット曲の上位10曲のうち、歌手と作詞作曲がまったく別の組み合わせである曲は4曲で、過半数はシンガーソングライターという現象が現れ、これは1990年から1994年まで変わらぬ傾向だった。

 これは日本人の経済的な豊かさが、精神的な豊かさに至ったことを意味しており、果たして「革命」が必要なのかどうか疑わしくなったことを意味したのが、奇しくもソ連崩壊の年と一致していたのである。

 

 このような状況で、「平和の大切さ」を訴える戦後民主主義(2017年になって名称をリベラルと自称)は、大きな欺瞞を抱えた思想ではないのかと問われざるを得ない。

 なぜなら、平和とは、ただ「戦争ではない状態」なのであり、人間にとって大事なのは、

 1990年から94年の邦楽ヒット曲の次のような歌い手の世界が表現する細やかな人間世界の洞察がなければ、「平和」それ自体に意味はないという事を若者は実感しはじめるようになっていった。

米米CLUB、LINDBERG、たま、プリンセス・プリンセスTHE BLUE HEARTS長渕剛サザンオールスターズ小田和正中島みゆき浜田省吾荒井由実CHAGEASKAなどである。

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