作家 西村賢太追悼

西村賢太氏を「破滅型」と評するべきではない。

西村氏は中卒で家出して以後、職を転々として、劣悪な職業環境、人間関係において辛酸を嘗めた。特に17歳から29歳までの間、それはひどいものだった。

この時期を題材にした小説を書いたころの西村賢太氏の現実の生活は、むしろ篤実なまでに貯蓄に努め、貯蓄を田中英光藤沢清造の関連書籍の購入にあてたり、藤沢清造の供養のための旅費にあてたりするなどする暮らしであり、「破滅型」でもなんでもない。

17歳から29歳ころまでの劣悪な職環境と劣悪な人間関係、そしてそうした状況に時に押しつぶされて醜態を繰り返した時期を題材にしたことが「破滅的」に見えるだけなのである。

 それは生涯を貫く「破滅的生き方」とは到底言えない。

30歳以後の職業的にも収入的にも安定して以後は、「破滅的」なことはない。

数年間の同棲女性との不和・諍いもそれくらい世間並みで特別「破滅」とも言えない。

 「破滅型」作家というべきではない。