「雪の日」 大西巨人作 講談社文藝文庫「五里霧」所収
登場人物は、二・二六事件の翌日に映画「人生劇場」を見に行く。
人生劇場は、現代日本では、すっかり忘れられた尾崎士郎の「小説」でもあり、それを原作とする映画が何度か作られた作品でもある。
現代日本人は「人生劇場」という小説が川端康成に激賞された事実もほとんど知っている人はいない。
そういう一般的にすっかり日本人の記憶にはない、この小説の一場面をこの登場人物は、心に刻んで生きてきた。
「人の真似をするんじゃねえぞ。・・・・ひとりですっと立って行け」
月明かりの山野を行進する戦死者の亡霊。
亡霊を見た青年は亡霊に呼びかける。
君たちは、あの最後の、無謀な戦争のために、そうして今でも歩き続けるのか、と。
亡霊は答える。バカめ。次の戦争のためにだよ。